大崎善生『将棋の子』魂を揺さぶられる将棋ファン必読のノンフィクション

大崎善生が2001年に発表したノンフィクション小説『将棋の子』を紹介します。大崎善生は雑誌『将棋世界』の編集長を10年間務めた経歴のある作家で、妻は女流棋士の高橋和(やまと)です。

プロローグは平成8年3月7日、第18回奨励会三段リーグ最終日の中座真の姿を追います。プロ四段への二つの椅子を目指して戦う三段リーグ、最終日の対局2局を前に中座は4番手につけていました。

堀口一史座 12勝4敗
野月浩貴  12勝4敗
藤内忍   12勝4敗
中座真   11勝5敗
今泉健司  11勝5敗
木村一基  10勝6敗

中座は1局目を勝ち、2局目に臨みます。奨励会には年令制限があるため、26歳の中座は勝っても負けても、これが奨励会最後の対局です。その対局は競争相手である今泉健司との直接対決でしたが、完敗を喫します。中座は何もかも終わったと、悔しさ、申し訳なさ、不安感に苛まれながら帰り支度をしていると、まだ目があると伝えられます。そして、奇跡的に昇段が決まると、運命の悪戯に翻弄された中座は腰砕けになり、膝を抱え、腕の中に顔を埋め、へたりこんでしまいます。私はこのプロローグだけで魂が揺さぶられ胸が熱くなりました。

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エピローグで著者は、普通であれば中座は将棋界を去っており、そうなっていれば「中座流8五飛車戦法」は存在していないことを指摘します。三段リーグという過酷なリーグ戦が本来は将棋界に取り込むべきであった才能を流出させてしまっているとしたら悲劇ではないかと。

『将棋の子』は羽生善治、森内俊之、佐藤康光、郷田真隆らが、ものすごい勢いで将棋界を駆け上がり席捲していった時代の裏で、夢破れ奨励会を去っていった者たちの物語です。著者の同郷である成田英二の物語を軸に、日本将棋連盟に勤務していた著者だからこそ知り得たエピソードが満載です。村山聖が奨励会を去る加藤昌彦に「加藤さんは負け犬だ」「僕は加藤さんのような負け犬にはならない」と言って喧嘩になった話。その加藤に「君が四段になれなかったのは、すべて僕の責任だ」と涙を流しながら詫びた師匠の小林健二。

『将棋の子』は将棋ファンに広く読んで欲しいおすすめのノンフィクション小説です。

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